名付けようのない踊り
えらいものを見てしまった。
と思った。
この歳になって突きつけられるものが大きい。
と思って見ていた。
ただ、後半の土方巽に振付られて踊ったというあたりから、その後の田中泯さんが振付をする辺りで楽になった。
やれやれ。
「名付けようのない踊り」
ダンサー田中泯さんの2017年から2019年の踊りを背景に描かれた映画だった。
映画としてとても面白いと思う。
ただダンスを観たいという人にとってはどうなのかは分からない。
一般でいうところのダンスではないのかもしれない。
でもそれこそが田中泯のダンスなんだろうと思わなくもない。
でもやっぱりリアルには勝てない。
田中泯の名前を初めて聞いたのは、もう30年近く前かもしれない。
みんさんはとにかく格好よかったんだと言うように聞いた。
でも、その頃は日本では踊っていなくて、海外をずっと回っているという話だった。
20年位前、映画で観た。
「たそがれ清兵衛」
終盤に村の外れのあばらやの中で真田広之に切られる所を鮮明に覚えている。
切られた後、ありえない方向にゆっくり沈むように倒れてくる。
信じられなかった。
ナンダコレ
誰だコレ
しばらくして東京国際フォーラムで田中泯さん振付の作品を観た。
現代舞踊協会が委託して出来た作品で、知人がでていた。
広い舞台上にこれでもかと言うダンサー達が並んでいた。
正直、踊りはあまり記憶にない。
次はその数年後の夏の夜、井の頭公園で海外の若手ダンサーに振付をした作品に自身も出ていた。
地面にゴザを敷いて座って観た。
林の中の一本の木の上に一つだけ黄色い照明が光っていた。
泯さんは20メートルくらい向こうから、30分かけて地面の上を這いずってこちらに向かって来た。
どてらを着ていた記憶がある。
暑い夏の夜、蚊に刺されながら見た田中泯は、恐ろしく重たい何かを背負って蠢いているんだと感じた。
それから暫くは映画などでたまに見ることもあったが、つい数年前、池袋芸術劇場の前で「場踊り」を観る機会があった。
単の着物にキャップを被り、カーキのパラデュームを履いて軽快にステップを踏んだり、木の影に潜んでみたりしていた。
70代と聞いていたが全くそうは見えなかった。
数年前、池袋芸術劇場シアターイーストで田中泯さんが作品作りをして公演をすると言うオーディションがあった。
悩みに悩んだ挙句にオーディションを受けなかったが、友人が合格して出演すると言うので見に行った。
かすかに悔しい思いもあったが、1時間の舞台は圧巻であった。
田中泯の踊りは分からない。
と思う事がある。
ただ物凄く心に迫るモノがある。
踊りは分かるとか分からないとか、そんなんじゃないんですよ。
と自分で言っておいて、分からなくなる事があるなんて馬鹿じゃないかと自分で思う。
口先だけ頭で考えながら観ていたんだと思い知らされる。
やっぱり、踊りは分かるとか分からないじゃない、と本物は教えてくれるんだろう。
田中泯さんは体全部心全部、一つ一つの細胞全てで存在している。
だから迫り来るんだろう。
やっぱり、えらいものを観てしまった。
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