ダンサーのボディケア
ダンサーやダンスをしていて故障をすることがあります。
ダンスに故障は付き物だから仕方がない、なんて思ってませんか。
怪我や故障をなるべくしないために、自分で出来ることも沢山あります。
こんなの無理と思わずに、出来ることから初めてください。
ダンサーやダンスでの故障の原因は二つに大別されます。
一つはテクニック的な問題。
もう一つは疲労です。
自分で出来るケアや対処法で、なるべく故障や怪我をしないようにして行きましょう。
テクニック的な問題
あら木はダンス教師ではないので、個々のテクニックについて解説は出来ません。
ダンサーやダンスの故障を長く見てきた中で、個々のテクニックの使い方や考え方・感じ方などに原因があることについてお話したいと思います。
テクニックの問題もいくつかに分かれます。
動き(テクニック)に対する解釈が間違っている場合と、自分が間違った動きをしている場合(テクニックを再現出来ていない)。
これらはアマチュアダンサーに多い間違いです。
先生の動きや言っていること説明を誤って解釈して動いてしまう。
または、解釈は間違っていないが、それを自分の体で表現出来ない(解釈のように動けない)。
どちらかと言うと解釈の間違いが多いような気がします。
特にアマチュアの方は、それぞれの動きが何を目的としているのか、どうしたいのか、どう見えたいのか、どこを使っているのか使いたいのかなど確認する必要があります。
自分が思っていることと、先生が伝えたいことが違うことがあります。
同じ言葉を使っていても違う意図があることがるので注意しましょう。
無理な振り付け。
無理な振り付けもいくつかに分かれます。
振り付けにダンサーの筋力が追いついていない場合、振り付け自体に問題はなくてもダンサーは故障や怪我をすることがあります。
これもアマチュアに多いので、指導者は生徒の筋力や現状を知って段階的に指導する必要があると思います。
すぐに出来るものなのか、1年掛かるものなのかは、指導している先生にしか分からないことです。
振り付け自体が危険なものもありますが、これは稀だろうと思います。
特殊な場合を除いては気にする必要はないかもしれません。
テクニックによる故障や怪我は、指導者が生徒やダンサーの現状を知ること、伝えたいことが伝わっているのかと言うことが大切です。
上にも書きましたが、同じ言葉を使っていても違う解釈をするのが普通です。
一つ一つの動きや順序や重心など確認する必要があります。
疲労についての問題
ここからがボディワーカー・整体師としてお伝えしたいことです。
ダンスの故障やダンサーの故障を長年診てきて、原因のベースのようなところに疲労があると考えています。
疲労が残ったままの体でリハーサルやレッスンを続けることで、普段なら何でもない動きが出来ずに故障につながります。
また、一部の筋肉にだけ疲労物質が溜まってしまい、疲労感はなく元気なつもりなのに、動かない筋肉や関節があって故障や怪我に繋がります。
疲労を貯めないこと、疲労を管理することがダンスの怪我や故障を防ぐのに大切になってきます。
疲労をコントロールするのに大切なことがあります。
・ウォーミングアップ(ウォームアップとストレッチ)
・クールダウン(クールダウンとストレッチ)
・アイシング
・テーピング
・アミノ酸
・その他
これらについて順に説明して行きます。
ウォーミングアップ
レッスンの前やリハーサルの前はストレッチ。
と思っている人がいます。
ストレッチもウォーミングアップの一つとして重要ですが、ウォーミングアップの目的は別にあります。
ウォーミングアップの主な目的は体温・筋温(筋肉の温度)を上げること。
体温・筋温を上げることで、血流を増したり筋肉の柔軟性をましたり、心配機能を上げることで運動の準備をすることです。
仕事やアルバイトで冷えて固まった筋肉を引っ張るくらいなら、スタジオの周りを軽く走ったりその場でジャンプする方が効果的です。
動き出す前に股関節や膝関節・足関節や脊椎など、体中の関節や筋肉を動かしておく必要はありますが、先ずは筋温を上げることが大切です。
最近、ストレッチをすると怪我をすると言われたりしているようです。
静的なストレッチを長い時間継続的にしていると、筋肉の反応速度が遅くなると言う研究があります。
筋肉には刺激の総和が多くなると反応が鈍くなると言う性質があるからです。
ストレッチには静的(スタティック)ストレッチと動的(バリスティック)ストレッチがありますが、レッスン前に静的なストレッチだけをゆっくりしていると動きが鈍くなり、レッスン中に躓いたりする可能性があると言うことだろうと思います。
ウォーミングアップの時には静的なストレッチを40秒以上は続けないこと。(同じ姿勢で長くそのままにしていない。)
少し長くなってしまったら、動的なストレッチやリトミック的な運動をいれて、刺激をリセットすると良いでしょう。
また冷えた筋肉をギュウギュウ引っ張ることで、筋繊維に損傷が出てしまうと言うこともあるかもしれません。
先ずは筋温を上げることが大切です。
ウォーミングアップの運動は軽い運動で大丈夫です。
その場で軽く上下動したり、軽くジョギングのようなことをしたり、ストレッチなら軽く反動をつけるような動的なものを繰り返したりです。
短時間で出来るものとしてこんなものはどうでしょうか。
その場で左右交互に膝を上げる。(股関節脱力)
肘を横に張って、手を前に投げる。(前に出した手は勝手に戻ってくる)
これを3分もやると、全身の筋温が上がり、関節も動き、血流も良くなります。
短時間でウォーミングアップする時には試してみてください。
ウォーミングアップはプロとアマチュアでは少し違うかもしれません。
アマチュアの場合は、別に仕事があるので、先ずはウォーミングアップして筋温を上げた後に、ゆっくり時間をかけてストレッチして下さい。
ストレッチは手首足首を回すことから始め、股関節・膝関節・足関節・肩関節・首などを回し、その後に大きな筋肉群をストレッチして行ってください。
ある程度時間をかけないと、仕事モードの体からダンスモードの体にはなりません。
プロの場合はそれほど時間を取らなくても、筋温を上げることで準備は出来ると思います。
静的ストレッチをゆっくりするのは気持ちの良いものですが、あまり時間を取ると動きが悪くなることがあります。
クールダウン
クールダウンもストレッチのことと考えている人がいるかもしれません。
レッスンやリハーサルが終わると、筋肉には疲労物質が溜まり張りが出ています。
このままの状態にしておくと、翌日に残る疲労物質も多いまま、筋肉の張りが強くなれば関節可動域は狭くなってしまいます。
これを防ぐためにクールダウンをします。
アイシングも重要で直接的なクールダウンですが、アイシングについては別に説明しますので、ここではクールダウンのストレッチについて書いておきます。
クールダウンでもストレッチをします。
疲労物質を流すのにストレッチも効果があります。
また、レッスンやリハーサル後は筋温が高く血流も良く、筋肉が伸びやすい状態(反応速度が遅い状態)になっています。
ストレッチはいくつかのことに注意して行います。
・前と後ろの筋肉をストレッチ
バレエやダンスのレッスン後を見ていると、体の後ろ側のストレッチだけをする人が多くいます。
開脚で前に倒れたり、前屈したりアキレス腱のストレッチです。
体の後ろ側だけでなく前側の筋肉も伸ばします。
片脚を前に伸ばし片膝を曲げて床に座ることで前ももが伸びます。
うつぶせに寝て両手を脇につき肘を伸ばすと体の前が伸びます。
片膝を立てて反対の脚を後ろに伸ばすことで、股関節の前が伸びます。
・表の大きい筋肉だけでなく深層筋もストレッチ
体の表面にある大きな筋肉だけでなく、深層にあって骨の近くの小さな筋肉も伸ばします。
特に股関節周りの筋肉はレッスンで良く使う筋肉なので気をつけましょう。
あぐらをかくように座って片膝を立て手前に引くと、臀筋が伸びます。
うつ伏せに寝て体の前に、足関節・膝関節90度にして、股関節を曲げ体の前に脚を起き、後ろの脚を伸ばします。
(下の写真)
座ってスネの内側とフクラハギの間に指を当てて押す。(マッサージ)
ストレッチとは別ですが、終わった後にすぐに動かなくなるよりは、ストレッチの後に軽く歩いて帰ったりすると、疲労物質は流れていきます。
アイシング
一昔前までは筋肉を冷やすことは絶対にダメだと言われていました。
平成に入ってやっとアイシングの効果が認められて来ています。
昔からあるスタジオや古いカンパニーでは、ひょっとしてまだアイシングの効果に懐疑的な先生もいるかもしれません。
でも、アイシングは怪我や故障をした時にはとても効果のある対処法です。
そして疲労を貯めないためにも効果があると考えられます。
一般的なアイシングの効果は、痛みを感じにくくする効果、血流を良くする効果、故障部位の代謝を抑える効果などです。
アイシングが疲労を貯めないために効果的なのには理由があります。
筋肉を動かすエネルギーの8割は熱に変換されます。
体が熱を持っている時、エネルギーが使われています。
エネルギーが使われると、使った後に疲労物質が出てきます。
体を動かした後は筋肉の温度が上がり熱が発生しています。
この時、平熱の時よりもエネルギーが使われ疲労物質が普段よりは余計に作られていることになります。
体を動かしていないのに疲労物質だけは出来てしまう。
これを抑えるためにアイシングをします。
プロ野球の投手などは試合が終わると肩の周りにアイシングをしています。
また、サッカーの選手なら氷風呂に腰から下をつけるとか、マラソン選手なら水風呂に浸かるとか。
そんなことをします。
バレエやダンスをした後に、時間があれば良く使った部位をアイシングするのは翌日以降に疲れを貯めないために大切なことです。
アイシングはなるべく氷でして下さい。
氷を水で洗って袋に入れて患部につけます。
保冷剤や粉を吹いた氷だと0度よりも温度が下がりすぎて、皮膚に良くないことがあります。
氷の0度が一番体表温度を下げる効果があるので、冷たすぎる方が良いと言うことはありません。
怪我(打撲・捻挫・挫傷)をした時の応急対処法として、RICE処置と言うのがあります。
R(Rest)=安静、I(Ice)=アイシング、C(Compression)=圧迫、E(Elebation)=挙上
スタジオで何かがあったら、すぐにアイシングしてフロアに横になり、故障した部位を心臓よりも上げておいて対処法を考えると良いです。
最近、アイシングはあまり良くないと言うことが言われることがあります。
アイシングを続けると悪い状態を冷凍保存していることになり、快復が遅れると言うものです。
確かに一理ありますが、では逆に温めると痛みがますということがあります。
アイシングは2・30分続けたら30分から60分位休んで、また断続的に行うのが良いと思います。
テーピング
怪我や故障予防のために収縮性のあるテープが有効です。
伸び縮みをするテープ(キネシオロジーテープなど)は貼付した部位の筋肉を柔らかくし血流を良くする効果があります。
リハーサルなどが続いてどうしても筋肉が硬くなってしまったような時、ウォーミングアップしてもストレッチをしても追いつかないような時など、ある程度の効果があります。
収縮性のあるテープを、硬くなった筋肉を伸ばして貼るだけで筋肉はゆるみ易くなります。
テープには薬はついていませんが、テープを伸ばさずに筋肉は伸ばして貼ることで、筋肉と皮膚に物理的な刺激を入れることになり、神経と筋肉の繋がりが良くなって血流が改善されていきます。
アミノ酸
筋肉を動かすためにはエネルギーが必要です。
また、レッスンやリハーサル中に水分を摂らないままでいると、汗で水分がどんどん体の外に出てしまいます。
レッスン前と途中には水分補給だけでなく、筋肉のエネルギーとしてのアミノ酸(BCAA)を摂ることが大切です。
アミノ酸の吸収は20分くらいで始まるという報告もあります。
レッスンの前から少しずつアミノ酸飲料を摂るようにすることで、筋肉中のエネルギーが減ることを防ぎ、翌日以降に疲労物質と疲労感を残さないようにしてください。
水分補給は熱中症などの症状にも必須です。
体重や体型を気にする気持ちも分かりますが、飲んだ分は汗で外に出ていくので大丈夫です。
その他
・睡眠
睡眠時間は出来るだけ取るようにして下さい。
筋肉中の疲労物質も精神的な緊張も、睡眠をとることで軽くなります。
あまりにも短い睡眠時間は筋肉の状態も精神状態も悪くする可能性があります。
レッスンもリハーサルも毎日夜遅くまで行われることが多いのは分かります。
でも、諦めないで出来るだけ取るようにして下さい。
無理だと思って4時間5時間の睡眠に甘んじてませんか。
スマホは明日でも見られます。
睡眠を増やす方が、明日のリハーサルも軽くなります。
・風呂
湯船に体をつけるようにして下さい。
夏になるとレッスンやリハーサルで遅くなり、シャワーで済ませてしまうことが多くなると思いますが、シャワーで汚れは落ちても疲労物質や疲労感は軽くなりません。
時間がないと言う人もいますが、ほんの1・2分浸かるだけで良いので、湯船につかりましょう。
湯船に浸かることで全身に水圧がかかり、体の中の血管を圧迫します。
血管が圧迫されることで、血液は心臓に向かって押し出されます。
シャワーにこの効果はありません。
また、日本人は湯船に浸かることでリラックスしα波が出て筋肉が緩みます。
また、湯船に浸かることで表層だけでなく体の深いところまで温まることで、血流も良くなります。
・お酒
疲れがたまったり痛みが出た時には、お酒は抜くようにして下さい。
(減らすのではなく飲まない。)
アルコールを体の中に入れると、肝臓は他のことをやめてアルコール分解を始めます。
肝臓は他にも多くの機能をもっていますが、代謝や解毒が遅れることになったり、アルコール分解で肝臓自体が疲れてしまったりします。
・タバコ
タバコに沢山の害があるのはご存知の通りです。
中でもタバコを吸うと数秒後には心臓に向かう血管が細くなります。
血管が細くなると疲労物質を流したり栄養や酸素を送ることが遅れます。
疲れが酷い時にはなるべく控えて下さい。
それでも怪我をしてしまったら。
怪我(打撲・捻挫・挫傷)をした時の応急対処法(RICE処置)があることは上に書きました。
その後のことです。
レッスンを休んだりリハーサルを抜けることが難しいのは分かります。
でも、騙し騙し続けるのも良くありません。
肉離れや捻挫の場合は、10日から2週間は休む方が治りが早く後に残らないということもあります。
この時ストレッチやトレニーニングもしません。
怪我をしていない部位を動かすことは構いませんが、怪我をした部位は伸ばしたりしないことです。
休むと体が硬くなったり動きにくくなると感じる人もいるかもしれませんが、逆にそこが狙いです。
休んで動かさないことで、怪我(肉離れ・捻挫)した部位が修復され少し動きにくくなります。
そこから少しずつ動かしていくことで、元の状態に戻りやすくなります。
治ってしまえば元のようになる可能性がある。
休むべき時に休まずに続けていると、完全に治らない状態で動くことになるので、怪我をした部位は怪我が残ったような状態になり、力が発揮出来ないこともあります。
気をつけましょう。
※RICE処置
R(Rest)= 安静
I(Ice)= アイシング
C(Compression)= 圧迫
E(Elebation)= 挙上