ダンスと故障の関係について
1998年から2000年にかけて整体学校に勤めていました。
その頃に整体学校が発行していた機関紙に「ダンスと故障について」と言う、アンケート報告をまとめたものを発表したことがありますした。
2000年前後のことで、当時16年程前から趣味でダンスを続けていた関係で、ダンス経験のある友人・知人が多いということもあり、ダンサーと言うよりはダンス愛好家を中心にアンケートをお願いしてまとめました。
内容的には整体関係の手技を学ぶ学生・開業者向けのものでしたが、ダンス愛好者・整体師を目指す方々の参考になればと思い、発表させて頂きました。
もう17年ほども前の原稿でしたので、文書には少しだけ手を加えました。
(アンケート結果はそのまま使っています。)
アンケート対象者
1.身体的特徴
男性 女性 全体
人数 3人 47人 50人
平均年齢 38歳 34歳 34歳
平均身長 174cm 158cm 159cm
平均体重 62kg 50kg 51kg
2.職業
男性 会社員 2名 ダンス関係 1名 他 0名
女性 会社員 12名 ダンス関係 14名 他 11名(主婦等)
3.ダンス経験年数
男性 1年未満 0名 ~5年 0名 6年以上 3名
女性 1年未満 2名 ~5年 15名 6年以上 29名
4.ダンスの種類(複数回答あり)
ジャズダンス 33名
クラシック・バレエ 28名
モダン・ダンス 9名
その他(ヒップ・ホップ、社交ダンスなど) 11名
アンケート結果
1.故障を起こす人の特徴
アンケート結果から対象者の86%(50人中43人)が、身体のどこかに何らかの故障を持っていることが分かりました。
故障経験の有無による特徴として、経験年数が長くなればなるほど故障する割合が高くなっていることが上げられます。
経験年数1年未満の方に故障者はおらず、3年未満で78%、5年未満で83%、6年以上では94%の方に故障が発生していました。
レッスン頻度で見ると、週1回以下の方では71%、それ以上では94%の方に故障がありました。
身体の柔軟性・技術力を見ると、全体に柔軟性が高く、技術的にも高度なテクニックを持っている方に故障が多く発生していました。
「故障するほどの技術がない」などというようなことが言われることがありますが、この結果を見る限り「経験年数が長く」「専門的にレッスンを受け」「技術的にも高くなる」と故障の発生頻度が増してくるということになります。
最近読んだ本の中に、「専門的にレッスンを受けている方は、故障しても休みを取ることが難しい。(精神的にも環境的にも)」というようなことがこの原因になっているようです。
※技術力については便宜的にピルエットの回数で判断しています。
2.故障の部位などについて
故障の多い部位としては①腰(63%)②膝(42%)③足関節(37%)④首(33%)⑤その他(23%)となっていました。(複数回答あり)
レッスン頻度が週3日以上になると極端に故障の件数が増えており、特に足関節の故障はレッスン頻度が低い場合には現れず、頻度が高くなるにつれて現れることが分かりました。
故障のタイミングとしては、レッスンの後半にその発生が集中しており、ここでも特に足関節は前半に少なく後半に故障が多いことが分かりました。
但し、首の故障についてはレッスン中を通して平均して発生していることが分かりました。
ストレッチや柔軟運動・バーレッスンなど前半の身体を温める基本運動の時には故障が少なく、コンビネーションやフロアなど動きが出てきてからの故障が多いのは当然と言えるかもしれません。
3.故障の部位とダンスの種類・経験年数について
クラシック・バレエ経験者の故障部位は腰に29%、足関節に22%、首に21%あり、他のジャンルのダンスに比べ首・足関節の故障割合が高くなっていました。
次にジャズ・ダンスでは腰に38%、膝に22%、首に19%で、モダン・ダンスとあわせ、腰・膝の故障が多くなっていました。
経験年数と故障部位の関係では、年数が増えるにつれ、腰→膝→首→足関節へと故障発生部位が変化していくことが推定されました。
特に足関節については4年以上のダンス経験のある人に限って故障が発生しており、経験年数や技術との相関があることが考えられます。
柔軟性との関係では、故障のないグループは比較的体幹の柔軟性が全体よりも低かったが、逆に首に故障のあるグループは柔軟性が高い評価となっていました。
身体が柔らかく、使えるようになると故障が発生しているということのようです。
4.故障への対処・予後などについて
故障の予後については完治したグループとしていないグループの比率は50:50となっていました。
よく行く治療院があるかないかを比較してみると、完治していないグループでは60%の人が行きつけの治療院があると答えたのに対し、完治したグループでは50%でした。
故障をしたらどこに治しに行くかという問いに複数回答ではあったが、①整体院②整形外科③接骨院④カイロプラクティック⑤鍼灸治療院⑥その他という順になっていました。
部位別に見ると腰については整体院と整形外科、膝については整形外科と整体院、首については整体とカイロプラクティック、足関節については整体と整形外科が比較的多く、どの部位でも整体院が多いことに驚かされました。
※整体師の私が集計したからということではなく、本当にこういう結果でした。
驚かされるとともに整体に対する期待の高さを感じます。
5.治療院に望むこと
最後に治療院に望むことをアンケートしたところ、①技術(84%)②信頼性(72%)③料金が安価(60%)④ダンスへの理解(58%)という順になっており、交通の利便性については24%にとどまっていました。
自分自身の経験からも利便性・信頼性・料金は当然のことながら、ダンスへの理解というのが稽古中の故障については非常に重要だという感覚を持っています。
6.まとめ
このアンケートはクラシック・バレエとジャズ・ダンス経験者が多く、偏った内容になっている可能性は否めませんが、それでもダンス経験のある方々には特徴的な故障というものがあるのではないかということが分かりました。
全体を通して言えることは「ダンス経験が長く、レッスン頻度が高く、技術的に上達してくると」「レッスン後半に腰から膝・足関節へと」故障が発生する確率が高くなるということのようでした。
また、故障が起こると「整体院または整形外科へ多くの方が行き」、そこで治療院に求めるものは「技術レベルが高く、信頼が置け、料金が安価でダンスのことを良く知っている」ということで、場所はあまり気にしないということでした。
ダンス・レッスンと故障の関係
「バレエはターンアウトから始まる」ということを良く耳にします。
1番から5番まであるバレエの基本の立ち方は、全て股関節を180度(又は出来る限り最大限に)外旋させたポジションとなっています。
この股関節を外旋させた状態が、股関節の屈曲・伸展・外転(ドゥバンやアラセゴン・アラベスクに上げること)をさせるのに好都合であり、一番美しい状態でもあると言われています。
股関節を外旋させてみると分かりますが、この状態では筋肉の体幹に対する位置関係が変わり、下肢を屈曲させたり伸展させたりする際の筋肉の主従関係が変化するように思われます。
正面を向いていた大腿四頭筋は外旋することで側面を向き、内転筋群や縫工筋などの筋肉がより多く前面を向くようになる。
腸骨や坐骨を起始とする筋肉の位置が変化することで、腸腰筋や腰方形筋などに影響が現れ「腰」の故障へと繋がっていくことが充分に考えられます。
また股関節を最大限に外旋させた状態で、股関節・膝関節・足関節を屈曲させていくことを「プリエ」と呼んでいるが、クラシック・バレエではレッスンの最初に必ずこのプリエを幾度となく行います。
大人になってからバレエを始めた人や子供のころからバレエを始めた方でも、多くの方はプリエをする際に股関節の外旋が不十分なまま膝関節と足関節だけを外旋させた状態にしていることから、膝関節・足関節にネジレを作っています。(膝と足の親指の方向が違うような場合ですね。)
股関節を充分に外旋させたプリエはダンスレッスンに入る前のストレッチであり、ダンスレッスンそのものであり、また、全ての動きの始まりでもあるが、プリエそのものを重要だと考えるに至るまでには長い時間がかかることが良くあります。
「早く上手になりたい」「早くあの(バレリーナのような)ポジションで立ちたい」と思うあまり、また、「とにかくアシを開いて」という先生の言葉を信じて、股関節の外旋よりも足先の外旋に目や頭がいってしまう。
不十分な股関節の外旋が膝・足関節の故障の原因となっていることは間違いのないことと思われます。
ジャズ・ダンスではクラシック・バレエと比べ、足幅が広く腰から上の体幹の動きが複雑でかつ大きい場合が多くなっています。
また、トウシューズを履かないため、ジャンプ以外での移動が多く下半身の動きも複雑であることがあります。(もちろん振り付けにもよります。)
このようなことから、まず体幹と下半身の動きの違いを双方から支える「腰」に故障が発生し、技術が高まるにつれ移動・ジャンプ・回転を支える膝・足関節に故障が起こることが考えられます。
これらの故障を未然に防ぐためには、レッスン前後のストレッチと故障が多発する部位に注意をはらうことの重要性を知る必要があります。
クラシック・バレエの場合、股関節のアンデオール(外旋)が一番重要です。
よく言われることですが、膝・足関節でアンデオールするのではなく、股関節をアンデオールさせることで膝・足関節の故障のほとんどは発生しなくなるはずです。
また、充分な股関節のアンデオールは、足をアラセゴンに上げる際に骨の位置を機能的にさせます。
ジャズ・ダンスなどのレッスンで気が付くことは、体幹の屈曲・伸展ストレッチには時間が割かれているが、膝・足関節・首などのストレッチに割く時間が少ないということです。
上半身と下半身のアンバランスな動きや同調した動きは、ダンスの醍醐味であり芸術性を高めるための振付けでもあると思いますが、故障をしないためには今にもましてストレッチに多くの時間を割くべきでしょう。
※外旋=ターンアウト(アンデオールすること)
屈曲=ドゥバン方向に足を上げていくこと。(下肢の場合)
伸展=アラベスク方向に足を上げていくこと。(下肢の場合)
外転=アラセゴン方向に足を上げていくこと。(下肢の場合)
注:ここに書かれていることはアンケート結果から推測した私見です。(特にⅢ)
アンケート結果には手を加えていませんので、ご自分自身の身体と良く話しをしてレッスンをするようにして下さい。